真崎です

沖縄にいます

私が退職する日、そのキャバクラはつぶれました

 

5ヶ月ほどお世話になった朝キャバのお店をつい先日退職しました。

同日お店もつぶれました。 

 

 

 

「全員、平等に給料カットしてるから」

 

社長の女性が告げる。

顔は不機嫌。

私たち動揺。

 

 

え?

 

 

「これだけ働いてるのに、あんたもあんたも真崎も全然本指名とってこない。これって結構ありえないからね?普通これだけの期間頑張って働いて営業もしてたら指名客つくからね?お客さん来ない時も待ってる間にずーっと関係ないおしゃべりしてたり携帯さわって営業メールしてるのかと思ったらゲームしたり関係ないサイト見てたり。お客さんにちゃんと連絡先聞いてる?連絡先交換したお客さんにマメに連絡してる?ドリンク頼もうって努力してる?場内(指名)取ろうとしてる?結局お店はキャストの女の子にかかってるんだからね?あんた達がお客さん呼ばなかったらお金は入らないからお給料も払えないの分かるよね?もう私も支配人もオーナーからお給料もらってないからね?今月0だからね?だから減らしたから。払うお金ないんだから分かるよね?」

 

 

まくしたてる、社長。

 

私たちはただ聞くしかない。

わりと真面目な女の子の多いお店だったのでみんな素直に「はい、はい、すみませんでした」と小さな声で謝る。

 

私の隣にはこのバイトで生計を立てている女の子。誰よりも多くの日数出勤している彼女の給与は、ざっと計算しただけでも3万円ほどカットされていた。経済的にギリギリの生活をしていた彼女は、突然想定が激しく狂って本気で絶望した顔をしている。

 

 

これが、つい1~2か月前。

私はこの日に退職したい旨を伝えた。

 

 

 

***************

 

 

体験入店の時に思ったことは

「ずいぶんお客さんの少ないお店だな」だった。

 

 

かつてはその地域自体で朝昼夜キャバがもっと栄えていたようで、地域柄ガラの悪いお兄さま方が店で暴れて潰れて吐いて倒れて喧嘩して朝は道路に割れたビール瓶と出血多量のお兄さまが転がっていたりしたらしい。

 

「あの頃は盛り上がってたよね~」

そう常連と楽しそうに語る社長は一晩でテキーラ4本開けて営業が終わった瞬間崩れ落ちて頭を打って血まみれで救急車で運ばれたらしいけど記憶がないらしい。流血がデフォルト。

 

 

 

栄枯盛衰。

 

その街自体から人が減ったらしい。キャバクラに来る人も、来てお金をガンガン使う人も目に見えて少なくなり、ただでさえ貴重な新規のお客さんを取り合う世界になったそう。

 

私が働いていた店も同様で、まったくお客さんが入らない日も週4で出勤していたら1日ぐらいはほぼ必ずあった。

 

「お店大丈夫?つぶれるんじゃない?笑」

キャストの女の子たちとはいつもそんな話をしていた。支配人の男性も「いやー今日もだめだなー」ぐらいのリアクション。

 

「お店大丈夫なんですか?」と聞くと

「まあこれでも昔はすごく栄えていた店だからね。あの時の蓄えがあるから心配するな」と支配人は言う。店内に「危機感」らしき空気は漂っていなかった。

 

 

masaki-desuyo.hatenadiary.jp

 

 

私は、このお店が好きだった。

 

初めて足を踏み入れる水商売の世界で不安もすごかった私。顔にも色じかけにも自信なし。フリーランスになりたてのときに経済的安定を求めて「ライター1本で仕事できるようになるまでの我慢!修行!」と言い聞かせて飛び込んだ世界。

 

支配人の男性はとても優しかった。

お父さんのような人。

待機中によく話したりしていた。

 

社長の女性は美しかった。

過去にずっとNO1キャバ嬢だった人。

あまり話さず近寄りがたいけどたまに一緒に席につくとそのサービス力と色気にキャストの女の子たちも感嘆していた。

 

 

そして、そのお店では「お客さんに営業しなくてOK」「待合室で携帯さわっていてもOK」「出勤日数が多い人は時給アップ」というルールがあった。

 

上記ブログは、べたべたさわってくるお金持ちのお客さんをやんわり拒否してたら怒らせてしまって私が罪悪感から支配人に号泣謝罪した話。支配人も社長も「真崎が頑張ってるのは分かってるし、無理しなくてもいい」と言ってくれてとても助かった。

 

ほんとに働きやすかった。だからたぶん「ブスブスくそブス(立てられた中指つき)」な暴言にも負けず5か月間続けてこれたんだと思う。

 

キャバクラは理不尽なことがとても多い世界だと聞いていたけど、理不尽なことなんてなに一つない店だった。

 

 

***************

 

 

スーパー理不尽な給与の削られ方をされた死にそうな顔をしている後輩キャストと、とはいえ同じく理不尽な削られ方をされた私は、「今この店なにが起きているのか?」について真剣に話した。

 

「もうお店やばいですよね」

まあそういうことだった。

 

2週間で「誰も来ない日」が3回。

来ても最低料金の席料分しか出さない人が多い。

お客さんが来ても私たちのお給料で赤字。

場代なども入れたらきっと大赤字。

 

 

「…」

「…」

 

 

待合室にただよう、なんとも言えない空気。

 

その後輩とは、クソ真面目な性格や仕事への取り組み姿勢がとても似ていると感じていたので、あの時感じていたものもきっと同じだった気がしてる。合計2つ。

 

 

1つは、罪悪感。

 

「確かに私たち、全然営業してなかったし、お客さんも呼べてなかったし、待合室でずっと喋ってましたしね」

「言いかえせへんよね」

 

しゅん。

 

 

 

2つめ。

 

「…」

「…」

 

「でも」

「うん」

 

 

「納得いかないですよね」

「うん」

 

 

営業しなくてOKで待合室では携帯もおしゃべりもOK。そのルールはあちらから提示してくれたもので、「こちらが空気を読んで対応する」必要性はあったにせよ、それで怒られて、且つ減給理由に「そのペナルティもあるからね」と言われることには、納得いかない。

 

そして、減給も突然。

事前の予告もなく「こういう理由だから引いたよ」という説明のみ。

 

 

そして、それよりも。

 

 

「社長、私たちのこと全然見てないのに、「まったく頑張ってない」とか言わないでほしいですよね」

 

「うん」

 

 

朝出勤すると、いつもそこにいるのはお父さんみたいな支配人。社長は大体2時間後ぐらいにきて、作業部屋にこもって、閉店前には帰る。仕事があるから仕方ない。

 

ただ、その人に「まったく頑張っていない」と言われたら、こっちだってやはり言い返したくなる気持ちはあった。

 

その後輩とは一緒に席につくことが多く、どうやったらもっとドリンク頼めるか、延長してもらえるかなどを待合室でよく話したりしていた。実際けっこう体張って頑張ってドリンク頼めたり、お金持ってる人が来たらとにかく飲めるだけ飲んで閉店後つぶれるみたいな状況もお互いあって。

 

 

それは、社長の求める「頑張り」より小さなものだったのかもしれないけど。

 

勉強が苦手なりにちょっと頑張ってテスト勉強したのに点数が30点で「ほら全然勉強してないからこうなったんじゃないの」とお母さんに怒られる時の子どもの気持ちって、こんな感じなのかもと思った。

 

「私だって、がんばったもん」

 

ふてくされたくなる、そんな気持ち。

 

 

 

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そこから「頑張って」も、お給料は減らされた。

 

怒られた当初は「社長の言うとおりなところもあるし頑張ってみよう」と話して、お店の理不尽さに無断でとんだ子たちもいる中、私と後輩は慣れない営業メールなどを送ったりしてみた。

 

でもすぐに結果は出ず、お給料は減らされた。

 

 

モチベーションなんてほぼなくなっていた。

お金もほとんどもらえない。

頑張っても同じ。

 

 

それでも続けたのは、支配人がいたから。

 

支配人も、お店が苦しくてお給料をほぼもらっていない状態。心身ともに弱っているのがひと目で分かる状況の中、いつも私たちキャストのことを気にかけてくれていた。

 

「お前達が頑張ってるのは知ってるから」

「給料の件は俺からちゃんと説得する」

「力ないから無理かもしれないけど、ごめんな」

 

後輩と一緒に「支配人のために頑張ろう」と言っていた。

 

 

一方で、社長に対する不信感はお互い消えなかった。

 

「全然私たちと話さないのに」

「全然私たちのこと見てないのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとは、

 

社長と仲良くなりたいのに」

 

 

 

私と後輩の奥底にあった気持ちは

たぶんこれだったと思う。

 

綺麗で強くて凛としていて

でも時々お店の経営不振で苦しんでこっそり泣いたり本気で悔しがっている姿も見ていて。

 

ほんとは、もっと話したかった。

あこがれや尊敬もあった。

 

近づき方が分からなかったけど

だけど力になりたかった。

 

 

 

 

お店がつぶれることは、私が退職する2週間前に決定したと告げられた。

私の退職日が最終日。

 

そのときにはもう私の出勤日数はかなり減っていて、残りあと4回ほどとなっていた。

 

 

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「キャバクラだって、本気の「仕事」なんだよ」

 

社長が、私と後輩に減給を告げて叱責したとき、こんなことを言っていた。

 

 

「プロなんだよ。席についている時だけ楽しく話してればいいってもんじゃない。待機室でも営業メール打ったり、休みの日でも電話かけたり、女の子たちのそういう努力があって初めて成り立つ仕事なんだよ。

 

 

私悔しいよ。

 

みんなもっとできるって。

 

 

私にできることがあったら教えたりするからさ、がんばろうよ」

 

 

普段あまり話さない社長が

感情をむき出しにして伝えてきた。

 

 

減給説明は理不尽でいやな気持ちになったけど、その社長の言葉は、私の胸にストレートに伝わってきた。まんまとこころを動かされた。

 

私にとって朝キャバはあくまで副業で、別に高い給与は望んでおらず、待機しているだけでも時給が発生するので「むしろお客さん少ない方がラッキー」という気持ちでいたことは、事実。

 

 

でも、これは「仕事」なんだ。

 

社長の想いがつまった「仕事」なんだ。

 

 

社長の話が終わったあと、私は自分なりに真剣に考えて、社長のもとに退職希望の旨を伝えにいった。

 

正直、副業としか思っていませんでした

座っているだけでお金がもらえる仕事だと思っていました

 

でも、それじゃダメだと思いました

やるなら「仕事」として向き合いたい

 

 

だけど、私の「仕事」はライターでした

 

ライターで本気でやっていきたいと思っているのに、朝キャバのバイトに甘えていて、結局どちらも「仕事」として中途半端にしていました

 

こっちの方がお金稼げるから、どこかで朝キャババイトをセーフティネットみたいに思っていました

 

 

頑張りたいのは、本業の方です

 

だから、けじめをつけて辞めさせて下さい

 

 

 

というのを

気付けば嗚咽交じりで話していた。

 

 

 

社長は真剣な目をして聞いてくれて

私が話し終えたあと、言った。

 

 

「真崎、ライターだったのね」

 

そこからか。

 

 

「分かった」

 

 

ライター、頑張りな。

 

あと1か月ちょっとぐらいだけど、最後、いっしょに頑張ろう。

 

 

 

さっきまで怒っていた社長の顔は

ものすごく優しい笑顔になっていた。

 

 

 

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その後も、やっぱり減給はあって。

その度に後輩と愚痴り合って。

 

悔しくて、悔しくて。

社長に「自分が頑張っている姿」を見せたくて。

結果残したところを見せつけたくて。

 

 

お客さんへの営業電話もかけて。

浴びるほどテキーラ飲んで。

席を盛り上げて延長と場内指名とって。

 

 

 

 

 

このときは確かかなり酔っていたけど。

 

でもほんと、もはや意地で。

 

 

 

 

 

実際酔っぱらってたから、幻覚かもしれない。

 

 

 

 

 

最終出勤日。

 

そして、お店最後の日。

 

 

「真崎。最後までありがとな。またマッサージしてくれ」

 

そう言って笑ってくれた支配人に、深々と頭を下げる。

この人のおかげで、最後まで働けた。

 

 

 

私が帰るとき、社長はまだ他のお客さんの席について楽しそうに接客していた。

 

いつも綺麗だけど

最後の日だからか、格段に綺麗にしている。

 

ちゃんと挨拶したかったけどできそうにない。

そう思ってお店を出ようとした。

 

 

 

「真崎」

 

 

接客中に、社長が呼び止める。

 

こんなことは普通ありえなかった。

 

 

 

社長の元へいく。

 

社長は、とても美しい笑顔をしていた。

 

 

 

 

 

「真崎。最後まで、本当にありがとう」

 

 

 

 

聞いた瞬間泣いた。

 

泣いて、おもいっきり頭を下げた。

 

 

 

 

そして、私の朝キャババイトは終わりました。

 

いっしょに、そのキャバクラも終わりました。

 

 

 

真崎

 

 

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