大学5年生の夏。
梅田。紀伊国屋。自然科学コーナー。
「なんで-から-したら+になるん?」
「なんで-と-かけたら+になるん?」
「なんで分数の割り算ひっくり返すん?」
勉強が苦手と言われている子どもたちから飛び出す無限の「なんで」に「なるもんはなる」と答えた先に自分の自己概念が著しく下がることに気付いた私。いろいろと解決したい。
ということで自然科学コーナーの数学書が集められた棚の前に立ち尽くし、「数字とは」的な本を私自身も新鮮な気づきを得ながら読み漁っていたところ
隣にカップル。
きゃっきゃきゃっきゃしてるカップル。
自然科学のコーナーできゃっきゃきゃっきゃしてるカップル。
気にせず立ち読みを続ける私の耳に、きゃっきゃきゃっきゃの内容が少しずつ輪郭を成して入ってきた。
「やっぱりすごいよな!」
「ね!ほんと萌える!」
彼らはなにかに萌えているらしい。
引き続き聞き耳。
「いやーほんと萌えるよなー
素数。」
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大学4年生の冬。
卒業を間近に控えていると見せかけて来年度は5年生、2度目の就活をしていた私は、当時一緒に学習支援の活動をしていた就活生の友人と阪大近くの居酒屋でふたり飲んでいた。
教育系企業や人材系企業を中心に見ていて、ノリと勢いで選考を乗り切っては最終面接でバコスコ落とされるというダメージでかめな就活をしていた私。
一方なんだかいろいろ優秀なその彼は、有名企業の選考をどんどんクリアしてすでに内定している企業もあり、その時は当時ノリにのっていた某IT系企業の最終選考を控えているというような状況。軽くジェラシー。進むモルツ。学生に優しい鳥貴族。
しかし、彼の第一志望は科学系の大手企業。
「どういうことがしたいん?」
彼に聞いた。
学生時代の活動は教育系に従事しているように見えたけど、就活の様子からは直接的に教育のかおりは漂ってこない。
彼がどんな意図を持って就活を進めているのか気になった。
すると彼は、おもむろにテーブルの下をのぞいた。
そして「ここを見ろ」と言うように、テーブルのある箇所を指で示した。
「例えば、テーブルこういう接合部分を見ると「ほ♡科学技術ってすげえ♡」って思う」
お酒が回っていたのか接合部分に本気で恋していたのか、そこを見つめる彼の顔は、なんだか少し赤らんでいる。
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先日久々に再会した後輩が、自分でも意外そうに言っていた。
「私、事務作業すごい好きかもしれないです」
かたや、事務作業は10分で飽きる真崎。
レバーを引くと座席部分が下がるイスに座ってレバーをぷしゅぷしゅしながら「上がるー下がるー」の上下運動を楽しみ始める。
昨日仕事の関係で初めてお会いしたweb関連やコンサルの仕事を個人でしている方が、優しい笑顔でおっしゃっていた。
「戦略を考えるのがとても好きなんですよね」
かたや、戦略考えなきゃとなると5秒で萎える真崎。
その辺はもう全力でそういうの得意な人と組みたい。
いろんな団体でその組織を裏から支えるようなポジションに従事して陰ながら活躍されている方にお会いした時はこんなお話を聞いた。
「見えないところで誰かをサポートすることが好きなんでしょうね」
かたや、絶賛見えたい真崎。
元々「見えないところで誰かをサポートしたい」的な人だと自分で思い込んでいたけど、最近なんだかそうでもないような気がしてる。
自己顕示欲高めというと響きはネガティブだけど最近は開き直ってる。
出たがりは悪ではない。
出会いが連続する中で、たまたまそうだったのかもしれないけど。
でも改めて気付くこと。
世の中うまくできている。
好きだ萌えだが絶賛被らない。
素数にも接合部分にも萌えない。
事務作業や戦略考案は苦手。
「じゃあなにが好きでなにに萌える?」と聞かれて
「好きなことは「書くこと」で、萌えるものは「行間」と「句読点」です。」と答えたらまったく理解されなかった。そうだったんだ。(気付き)
みんながみんな自分の好きや萌えに従って今の仕事や活動をしているかといえばそうではない、ということを社会人になってから知るようになったけど
少なくとも、そこに従って毎日楽しくやってる人たちもどうやら一定数いるみたいだから、そこんとこはそんな人たちにお任せしちゃっていいもんなんだと最近思うことが増えた。
自分の苦手や嫌いを、得意で好きなあの子がいる。
あの子の苦手や嫌いを、得意で好きなわたしがいる。
だからピースがかちりとはまる。
そうして回るものがある。
それ、とってもよかばい。
かみさまの戦略性に脱帽。
世の中うまくできている。
追伸:萌えって死語なんですか?(ちょっと恥ずかしい)