真崎です

沖縄にいます

100回ブスと言われた元キャバクラ嬢は「ちょうどいいブス」をススメない

 

「ブス」は滅びの呪文だと思う。

 

なにを滅ぼすか。ラピュタ、否、自尊心です。

25歳の春、副業で勤めていた朝キャバにて。当時ギリギリで保たれていたわたしの自尊感情は、クソめなパズーこと山木さんの「ブス」連呼によって破滅した。

 

山木さんはお店の常連だった。いつも同僚や部下3~4人で来店しては、デロデロに飲んで騒ぎまくって酔い潰れてフラフラ帰る。その姿をわたしは待機ルームや別テーブルからちょくちょく覗いていた。

 

ある日、わたしが山木さんのテーブルにつくことになった。マスターは少し不安そうな顔で「彼ね、普段はおとなしくていい人なんだよ。でも酒を飲むと口が悪くなっちゃうんだよな。何言われても気にしなくていいからな」と言った。

 

はぁいと軽く返事して、すでにデロデロ状態な山木さんのテーブルに向かい、ニッコリとあいさつをする。

 

「失礼します~^^」

「帰れブス」

 

これが彼のファーストブスだった。

 

以前から、わたしの顔を見たお客さんに「さっきの子のほうが可愛かったな~」「お姉さんは地味な顔をしているね」と微妙な反応をされることはちょくちょくあった。唯一わたしを指名してくれる赤井さんすら「お前、全体的にピーマンみたいだな」とよく分からない総評をくれた。

 

それでも、ここまでド直球に、しかも出会って開口一番「ブス」を投げつけてきたのは山木さんが初めてである。

衝撃でリアクションが上手くとれないわたしにかまわず、彼は次々と追いブスをぶつけてきた。

 

「ブス!おいブス!くそブス!なんやブス!帰れやブス!呼んでないぞブス!なに座ってんねんブス!笑うなやブス!なんか言えやブス!しゃべんなブス!なんで胸だけデカいねんブス!」

 

もはやブスが語尾化している。どうも山木でブス。座っても笑っても黙っても喋っても罵られてしまい、どうも存在自体がお呼びでない。かろうじてFカップだけが市民権を得た。

 

彼の執拗なブス攻撃に、当時のわたしは「うわ、ひどくないっすか~~!!笑笑」などと微塵も気の利かない返しをしてはニコニコ笑っていた。

山木さんは引き続き「なに笑ってんねんブス!ブスはせめて胸出せやブス!」とブスをブスブス突き刺しながら胸をさわってこようとし、慌ててマスターが止めにくる。

 

そんなやり取りを繰り返すうちに時間がきて、山木さんテーブルへの初陣が終わった。

山木さんは「じゃあなブス!」と吐き捨てて店を出る。暴れるわりに毎度あまりお金を落とさないらしい彼に「今度は指名料払ってタイプの嬢でも呼べやコラ」と言いたい気持ちをグッとこらえ、最後までニコニコと見送った。

 

この日だけで、おそらく30ブスはくらった。

体力と精神力がすり減って待機ルームでぐったりするわたしに、マスターは「ごめんな。あの人酔っ払うとああなっちゃうんだけど、本当に思っているわけじゃないから」とフォローを入れる。

 

マスター。

たとえ本当に思っていなかったとしても、ブスと言われたら凹むもんなんですよ。

 

さいころ、意地悪だった兄にとつぜん「今からお前のことをブスって言いまくるけど、絶対泣くなよ。泣いたら負けな。はいスタート、ブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブス!!!!」という史上最悪のオリジナルゲームを持ちかけられ、ショックすぎてものの数秒で号泣した経験を思い出す。

 

当人にどんな意図があろうと、「ブス」はその響きだけで相手を傷つけ、自尊心を奪う殺傷力を持っているらしい。

久々に真正面からブスをくらいまくったわたしの頭に、兄とのクソゲームで得た気付きがよみがえった。

 

その日はマスターが早めに退勤させてくれ、未だズキズキと傷む胸を抱えながら池袋の風俗街をふらふら歩いて帰った。

「あぁ、わたし今めっちゃ傷ついてるな」と思った。

 

 

山木さんは、それからも週1ペースで店にきた。

そして、わたしをテーブルに呼びつけたり待機ルームまで来て絡んできたりするようになった。指名はしない。「ブスに払う金も飲ませる酒もない」らしい。

 

「おいブス!今日もいんのかブス!来いやブス!」

 

はいはいニコニコどうもブスですブスが失礼いたしますぅ。諦念ただよう笑顔を浮かべながら山木さんの水割りをつくる。おいブス。こらブス。ブスのつくる酒はまずいなブス。はははニコニコもうほんとブスですいませぇん。

 

道化と化したわたしに、山木さんは満足げだった。

 

朝キャバで働く前の、2年間のしょっぱいサラリーマン生活で、わたしの自尊心は自分史上最底辺に落ちていた。

自分で自分を上手く愛せないなら、他人に存在を承認・肯定され続けるしかない。

そう思って生きていたわたしは、お店にどんなお客さんが来ても「誰かに嫌われる、不必要だと思われるのは怖い」といった不安から媚びるように機嫌を取りにいった。

 

たとえ山木さんであっても、嫌われたくない。

この人に、目の前にいる相手に必要とされる自分でいないと価値がない。

 

わたしは、滅びの呪文「ブス」を受け入れた。

 

 

結局、山木さんからは最終合計100ブスほどくらった。

 

我ながら、なかなか都合のいいサンドバックになれたと思う。日頃の鬱憤をガンガンぶつけられる素直なブスとして、わたしは最後まで彼に求められ、かまわれ続けることができた。

 

やったね。すごいね。

 

自尊心、最初よりボロッボロになってるけどね。

 

 

www.huffingtonpost.jp

 

「ちょうどいいブスのススメ」なる本とドラマが話題になっている。

 

自分の容姿が美しくないこと、なんならブスであることをまずは受け入れなさい。見た目もノリも距離感も、男にとって良すぎず悪すぎず「ちょうどいい女」でありなさい。まぁそんな感じのモテハックらしい。

 

著者の山崎ケイさんは、たぶんこの戦法を上手く使いこなして実際にモテているんだと思う。男にとって、ちょうどよく、都合よく、選ばれやすい女をやっているんだと思う。大いにけっこうである。勝手にモテていてほしい。

 

 

でも、できれば女性の恋愛指南書にはしないでほしい。

100回ブスと言われたわたしは「ちょうどいいブス」をススメない。

 

「ブス」と言われ、「ブス」を受け入れるとき、想像以上に自分はしっかり傷ついているから。男に相手にされようが、自尊心はゴリゴリに削れていくから。

 

ちょうどよかろうがなんだろうが、結局「ブス」は誹謗中傷、人を見下し馬鹿にするための言葉だから。呪いだから。

 

山崎ケイさんがどうかは知らんが、自尊心低めな人が安易に「ちょうどいいブス」なんて目指したら、たぶん、きっと、もっと自分を嫌いになってしまうと思うから。

 

自分を「ブス」と下げてまで他人に選ばれなくてもいいし、他人に平気で「ブス」のレッテル貼るような奴に好かれる必要はない。

 

「ちょうどいいブス」なんて、響きがキャッチーなだけの都合のいい女にならないほしい。自分で自分を「ブス」にしないで。

 

 

キャバ嬢を辞めてから3年半。

温かい環境と優しい人たちにぬくぬく囲まれて自尊心がしっかり回復している今、もうわたしは自分を「ブス」などと受け入れる気はない。「ブス」など言ってくる人間をわたしの人生に入れるつもりもない。

 

ブスと言われて、ニコニコ、するかよ、しねえよこちとら全力真顔だよ。

 

山木、よく見ろ。

わたし意外と鼻筋キレイだろコラ。

 

真崎

 

※今回出てくる人名はすべて仮名です。

 

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