平成最後のエイプリルフールだぁってことで、もう朝からツイッターが嘘と令和にまみれてる。
沸き立つタイムラインを寝ぼけた目でぼうっと眺めながら、京阪電車にゆられて祇園に向かう。デートですか。いいえ顔面エステです。
久々の早起きでどうにも眠く、枚方あたりで早々に目をつぶる。視覚が遮断されるとここぞとばかりに聴覚の出番。先ほどまで無意識に垂れ流していた音楽の輪郭を捉えた。
イヤホンから聴こえてきたのは、最近ハマってるバンド・official髭男dismの『バッドフォーミー』だった。
”あっとあっと言う間に
全然タイプじゃないのに
ときめきが浪費されていく NO NO”
顔面どタイプの男子たちにあっという間にときめき惚れては当たって砕ける。そんな恋愛を4回ほど繰り返して心が折れた、19歳の春のこと。
部活のユニフォーム姿と濃い顏がステキなアイツ、バスケの授業で見せてくれたスリーポイントシュートと濃い顏がナイスなアイツ、そしてバレーボール選手の越川優にただただ似ているミラクル濃い顏なアイツ。
高1のときから律儀に毎年ひとりずつ好きになり、律儀に告って律儀にフラれ、傷心のまま上がった大学で出会ったのは見事なまでにどストライクな先輩、濃い顏。
通算4人目、年にひとりのひと目惚れ記録を律儀に更新。
通算4人目、年にひとりの玉砕記録もまた更新。
お疲れさまでした。ありがとうございました。
友人の協力を得ながらあの手この手で先輩に接近。飲み会やキャンプで仲を深め、一度だけ彼の家にお泊まりだってできた。なにも致してないけれど、ふたり並んで寝転んで、朝までいろんなことを話した。
これはいつもと違う勝ち戦。「勝利は目前だぁ」とひとり勝手に息巻く裏で、後日あっさり先輩にかわいいかわいい彼女ができた。
敗戦確定。メンタル打首獄門。
気付けば鴨川にいた。
夕焼けに照らされた鴨川のほとり。川べりにひとり三角座りして、対岸の五分咲きサクラを死んだ目で見つめる。
なぜ、こんなにも、恋愛が上手くいかないの。
親友も含めた周りの女友達たちは、彼氏にデートにと忙し楽しい日々を過ごしているのに、私ときたらなんでこうなの。
なんでなんでなんでなんで。
油断したら涙がにじむ。
涙がにじむと鼻もゆるむ。
ハンカチを取り出して顏にあてながら、グズッと鼻をならした。
「あの~、こんにちは」
後ろから男性の声がした。
低すぎなくて柔らかい、聞き覚えのない声だった。
ビクッとして振り返ると知らない男がいた。
ひょろりと細長い体型で赤いベレー帽を被ったその人物、二言目には「昨日助けていただいたマッチ棒です」とか言い出しそうな外見だった。
「おひとりですか??」
マッチが聞く。
あ? ひとりだよ物理的にも心もな!
なんて掴みかかるほど私も荒ぶってはおらず、とりあえず「あ、はぁ」とだけ返す。
その返答をしたとき、彼とバッチリ目が合った。
うっす。
顏が薄い。
ビックリするくらい顏が薄い。マッチ棒にボールペンでちょんちょんちょんと3点書いたらもうこの男じゃね?
え、てかこれナンパ??
わたしグッズグズの顔面で??
全然タイプじゃない塩顏マッチに??
これこの先続けてなんかいいことある???
目の前のシチュエーションに静かに絶望する私。
一方のマッチは、こちらの顏を見てギョッと驚く。
「え、ちょ、めっちゃ泣いてるやん!! どしたん!!?」
グズグズの泣き顔に引くかと思えばむしろ心配した様子で、わたわたとズボンのポケットを探るマッチ。残念ながらティッシュもハンカチも出てこない。
「ごめ、ちょっと待っといて!!ちょっとまだそこいといてな!!すぐ戻ってくるから!!おってな!!」
いきなり声をかけてきたと思えば、なにも要件を言わずにすごい勢いでマッチは走り去っていった。なんだアイツ。
ちょっと待っといてと言われたから、ではないけれど、なんとなくその場を動かずにいた。
数分後。
ダッダッダッと走ってくる足音がする。
その気配が近づくにつれ、ガサッガサッというビニール袋の音も聞こえてくる。
「おった!!」
息を切らせてマッチが戻ってきた。
手にはセブンイレブンの袋。コンビニでの買い物にしてはずいぶん中身が多い気がする。
少し間隔をあけて私の横に座り、袋をガサッと開ける。スパイシーでおいしそうな、でもいろんな何かが混ざり合った複雑な匂いが漂ってくる。
「フランクフルトと、アメリカンドッグと、からあげ棒と、牛肉コロッケと、肉まんとピザまん、どれがいい? 全部でもええで!」
どこからツッコめば。
袋の中を見る。
コンビニのホットスナックオードブル。
彼の顔を見る。
曇りなき眼でわたしに微笑みかけてくる。
「めっちゃ落ちこんでる時に甘いもん食べる人おるやん。僕ちゃうねんな。そういう時はコンビニのレジ横のあったかいヤツいっぱい買って馬鹿みたいに食べんねん。口んなかジュワワ~ってなったら幸せな気分になんねん!」
そう嬉しそうにぶわっと話して再びコンビニ袋を差し出すマッチ。泣いてる私を慰めてくれようとしている、気がする。
「ほな、からあげ棒もらっていいですか?」
揚げ物の油がにじんだ袋を取り出して、おずおずと彼に聞いた。
「ええよ!セブイレのからあげ棒めちゃくちゃ美味いよな!ローソンの焼き鳥より全然美味い!」
わたしはからあげ棒を、マッチはアメリカンドッグを、それぞれ開けてもしゃもしゃと頬張り始めた。おいしかった。
「なあ、見てこれ、すごない?」
マッチが差し出したのは1枚のレシート。印字された時間を見たところ、どうやら先ほどのセブンイレブンでもらったものだった。
「値段見て、値段」
値段を見る。854円。
すごさはどこ。
「854って、なんか意味ある数字なんですか??」
「へへ、ちゃうちゃう」
「え、ほな何がすごいの??」
「854ってな、77引いたら777になんねん」
?
「777は7みっつやけど、854やったら7いつつやで。すごない??」
タハッ
吹いた。わたしの負け。
突然のダッシュ、大量のホットスナック、777と854の謎理論、 セブイレのからあげ棒、ライバルはいきなりローソンの焼き鳥。
なんなんコイツ。意味分からん。
意味分からんけど、これはもう笑ったもん負け。
得体の知れないマッチ棒みたいな塩顔男に、わたしはすっかり心を許してしまった。
「なんなんその謎理論、めっちゃおもろいやんwww」
「謎ちゃうやろ!777より854のほうがハッピーやで!!」
マッチといっしょにゲラゲラと笑って、からあげ棒とアメリカンドッグをそれぞれ食べた。
その後わたしはフランクフルトを、マッチは牛肉コロッケを、さらに続けてわたしは肉まんを、マッチはピザまんを食べた。
「ウソやん、チーズ固まってしもた」
心底悲しそうな顏でピザまんをかじり、残ったところを半分に割るマッチ。
「最初に食べなダメでしたね」
半分こされたピザまんを受け取ってもしゃりと頬張る。とろけないチーズ。落ち込むマッチ。思わず笑う私。肩を並べてジャンクフードを食べながら、くだらない話をしては、たくさん、たくさん笑った。
いつの間にか夕日は落ちて、涙はすっかり乾いていた。
「やば!僕行かな!!」
マッチが立ち上がる。
思わず「え、もう行くの??」という言葉が出そうになって驚いた。
最悪のタイミングで突然声をかけてきた、全然タイプじゃない塩顔のマッチ棒。なのに、このたった30分で、彼との別れをとても惜しんでいる自分がいる。
え、てか、これナンパじゃなかったの?
ここから飲みに誘うとかじゃないの?
一緒にどっか行ったりしないの?
せめて連絡先交換とかさ?
え、聞いてよ、わたしから聞くの怖いねんけど…?
ひとり脳内パニック状態のわたしの前で、マッチはまたわたわたとズボンのポケットを探っている。そして1枚の紙を取り出してわたしに差し出した。
受け取ったそれは、四条でオープンしたばかりの、スペインバルのショップカードだった。
「これ配りにこの辺おってん!この店で僕働いてんねんけど、メシ美味いからいつでも来てな!」
ニッコリと笑い、なぜか両手でわたしの右手をグッと握り、そのまま振り返ってまたダッシュ。マッチは消えていった。
結局、あの後マッチのお店には一度も行っていない。
気付けば新しい春がきて、学年が上がり、今度は焼肉屋さんの店員にひと目惚れ。
年にひとりの濃い顏ラブ、今度も惚れて砕けるまで律儀にしっかりやり切った。
そんな若かりしわたしの暴走恋愛、5人目にして無事にフィニッシュ。
「マッチは、好きにならなかったの?」
分かんない。
今までにない出会いだったから。
今までにないタイプだったから。
それにあんなに短い時間だったから。
あの日のあの感情を安易に「恋」なんて言っていいのか、臆病な恋愛弱者のわたしにはよく分からない。
それでも、今ここに書いているように、マッチのことは時々こうして思い出す。
恋愛なのかは分からないけど、ずっと忘れられない、ちょっとだけ特別な異性。
だからマッチは、4.5人目。
ほんの少し惚れた男として、小さく胸に刻んでおくよ。
とかね、ないない。
マッチ? 誰それ? いないいない。
だって4月1日ですし。5時間がかりのただの嘘。
さっき鴨川でからあげ棒食べてるカップル見て勝手に考えたドフィクション。
この文章は鴨川が出てきたとこから全部ウソです。5度の失恋だけが紛れもない現実。
4.5人とかないから。
人間数えるのに小数点とかねえから。
そんな平成最後のエイプリルフール。
新元号の誕生日。令和もみんなで幸せになろうな。
真崎
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