気になった人に、婚約者がいた。
ある秋の寒い夜
山手線を降りて帰路を歩く放心状態の私。
ひとりの宛先を呼び出し、本文を入力した。
「人妻ぁ」
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人妻との付き合いが始まったのは4年前。
当時まだ彼女は人妻ではなく当然わたしも彼女のことを本名で呼んでいる。
彼女との直接の関わりが多くあったわけではなかったが、同じコミュニティ、共通の友人が多くいたため、東京での遊びや飲み会、セミナーや研修などの場に彼女が同席していることは多々あった。
なんか、いろいろハイスペックな女だった。
女子力の代名詞と言っても過言ではなく、例えば一緒に遊ぶときには必ずなにかしらお菓子をつくってくるという「デキるバタ子さん」みたいな女。前日に焼いたというパンをディズニーランドで振る舞う彼女の背後からはこころなしかちょっと後光差してた。
知的で頭の回転が速く、重ねて物事を計画した際の動きも迅速、みんなの連絡の中枢には必ず彼女がいたと言って過言でなく、おかげで話もスムーズに進む。
ディズニーランドを極めたという彼女が案内人を務めると、もれなくほぼすべてのアトラクションを制覇した後に予約なしの特等席でパレードとプロジェクションマッピングを観覧できるというスペシャルオプションがついてくる。
自分の意思と意見をしっかり持っていて、飢えた野獣のような勢いのある男達の輪の中でも臆することなく自分の意見を発することのできる真っ直ぐさ。
滑舌が良くないのが
逆に男心をくすぐるらしい。
(男談)
わたしもそろそろ噛みたい。
(特技:早口言葉)
ここまで褒めるものも(勝手に書いておきながら)多少癪なので少しくらいはけなしたいのだけれど、どれだけ悪意を持って過去を掘り出してきても「幹事のくせに大学最後の制服ディズニーで寝坊してきやがって」くらいのものしか出てこない。
しかもそこからの行動によって、その失態による信頼損失をきちんと回収しているのだからもう黙るしかない。
2度目になるが
彼女は女子力の代名詞である。
色気も含めてわたしにないもの(特に女子的・恋愛的な要素)をたくさん持った女性だと感じており、わたしの中では「恋愛の話・相談=人妻」という図式が成り立っていた。そんな女子たちは少なくなかったのではないかと思う。
彼女の恋愛経験とそこに基づく恋愛ひいては人生哲学には、多くの人が学ばされることがあるのではないかと思う。
私はもれなくそのひとり。
そんな彼女が、ある日突然人妻になった。
そこまでの経緯を全く知らなかった私は、ディズニーランドの「It's a small world.」に並びながら彼女にその話を聞くことになる。
彼女の行動力、戦略性、計画性、自己確信、そしてその旦那(予定)に対する純粋な愛の気持ちを聞いたわたしは、もう素直に感動した。こんなに相手を純粋に思える恋愛をしてみたいとこころから思った。
敬意を込めて
彼女を「人妻」と呼ぶことにした。
「いいかな。」
「いや普通に名前で呼んでほしいかな。」
無視した。
そして彼女は、山口県で務めることになった旦那に添い、慣れ親しんだ関東の地を離れて昨年末から山口に移住。
山口へついていくことに対しても、迷いは見えなかった。
敬意を込めて
彼女を「山口の人妻」と呼ぶことにした。
(心なしか極道のにおいがするが断じて違う)
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最後に異性にまともに告白したのが5年前。
大学2年生の冬。
大学のサークルの先輩後輩の方々と行った「牛角」で働いていた店員さん(清水翔太似)がなんだかいろいろドストライク。
「あの人めっちゃかっこいいどうしましょ!!」と言ってたら、先輩に「アドレス渡せ」との指示を受け、従順系社会適合女子だったわたしは帰りにその人にアドレスを書いた紙を渡し
やり取りが始まり
(中略)
ふられて終わった。
若かった。
(BGM : 青いベンチ)
それ以後にも好きになった人がいないということはない。今思い出せるだけでも3人は「いいなあ」と思える人はいた。
ただ、ここで大きな問題が。
私が少しでも気になるなと思った人には
おそろしく素晴らしい共通点
「長く付き合っている彼女がいる」
というものがあった。
大体、平均4年(当社比)。
自身の身近な経験から「略奪」「浮気」「不倫」などをある種の「絶対悪」と思っていた節のあったわたしは、「もし好きになりそうな人に相手がいる場合はいかなる場合でも手を引く」という暗黙ルールを自分の中に秘めていたわけなんだけども
3人連続て。
打率10.0。
逆に名打者。
それで大学終わり頃に気になった人に彼女がいると知って大学生活最後の沈没を迎えた以来、社会人になってからそんな春の気配すらめっきりなくなった。
ブランク1年半。
そこに昨年、忽然と現れた、気になる人。
きた、と思った。
よっしゃ、と気合入れた。
婚約者いた。
打率、記録更新。
自分のポリシーに従い、もうさっさと忘れようと思いながら肌寒い夜の中を歩く。
でも、この時ばかりは無性に切ない。
久しぶりのときめきが一瞬のうちに終了。
わたし前世でなんかしたかな。
ひとりでこの気持ちを持て余せなかった。
メッセンジャーから
人妻、召喚。
このどうしようもない気持ちをどうにかしたくて、彼女にメッセージを送った。
そして、ここから始まった。
『山口の人妻の恋愛講義 vol.1』
~気になった人に長く付き合っている相手がいた場合~
※人妻の姿を想像できた方がやり取りが伝わりやすいかと思うので、「人妻 山口 フリー素材」で検索したら出てきた以下の画像を「仮・山口の人妻」とします。
※残り9割はほぼ裸体だったので、改めて「人妻」という言葉に対する世間一般 のイメージを私も認識しました。
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「人妻ぁ。
例えば気になった人にロングタイム付き合っている彼女がいる場合の気持ちのやり場についてひと言。」
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「let it be.
なんか日本語思いつかなったから笑。
大人になればそういうことは往々にしてあるものだよ。
既婚者だったりね。
無理に避けようとしたり、他に目を向けようとすると、余計に気になってしまうのが人間よ。
気になる人ができたってことは、他に素敵な人が現れればまた気になることもできるんだから、無理はせず、いろんな人に会ってみたり、意識せずに食事とかしてみたらいいさー。
恋愛を意識してるときほど、またすぐに良い出会いがあるもんだよ。
特に恋愛が上手くいかないときに、上手に手放せる人は、その後必ずいい恋愛をしていると思うよ。
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「人妻、なんかめっちゃ深いレスくれてありがとう。おかげさまで恋愛意識しまくり、久々に切ないこの感じです。
そして、「上手に恋愛を手放せる」とはどういったことなのでしょうか??」
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「自分のタイミングで、自分を幸せにする恋愛へとシフトすること。
真崎が幸せになる恋愛へ気持ちを向けることだよ。
とことん好きになって狙ってみるのか、今すぐ他へ気持ちを向けるのか。
それはどっちでもいいんじゃない?
真崎が幸せを感じられれば。
でも、もっと幸せになるたいな、って思ったら、そのときが多分タイミングで、何かを変える時なんだと思う。
正解がないから、不安になったり切なくなったりするけど、それも恋愛の醍醐味でしょう。」
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「なんか突然ぽんって落ちてきた恋愛っぽい感情で、んでいきあり彼女ありからのスタートだったので、もうパニックな感じ。
ただこれからも会う機会はあるし、そういうのを経て自分がどういう選択をしていくのか、まだイメージが湧かないや。
これぞ醍醐味。」
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「それはパニックになるわな。
先のことがまったく読めないのが恋愛よ。
他人の心はそう簡単に変えられないからね。
誰もが日々いろんな感情に向き合って、自分と戦っているのですよ。
私だって、もうだめだって何度もなって乗り越えて今があるわけさ。
何もかも上手くいくわけじゃないのだよ。
どんな人と一緒にいたいか
その人といてどんな自分でいられたら幸せか
そこだけは目を逸らしてはいけないよ。
(幸せな状況とはいいがたい恋愛してるのにそこに固執してしまう人は、幸せかどうかじゃなくて「彼氏をつくること」に目標が定まってるからね。そこは真崎は大丈夫だと思うけど。)」
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【学んだこと】
・無理して忘れようとしなくてOK
・そこから狙うのか手を引くのかに関してもどっちでもOK
・大切なのは「わたしが幸せになる恋愛」へと気持ちを向けること
・自分がなにに幸せを感じるのか、ということに目を背けない
(・幸せじゃない恋愛への固執は注意)
なんだか、スッとわたしの中に入ってきた。
たったの1歳違いの彼女の言葉は
驚くほどの重みと説得力を持って真崎のこころを揺さぶりました。
経験値、向き合ってきた時間なんだろう。
人妻のアドバイスを受けてこころが軽くなったので、変に構えずにその人と会える場所に出向いたりお話ややり取りをして
その結果、ごく自然に気持ちが収縮していったので、その流れに任せてその人への気持ち的関係性を「いち仲間」に昇華させることに成功。
切なくなることもあったけど、大丈夫だった。
わたしのバックには山口の人妻がいる。
そんな安心感。
山口の人妻は
山口から私のことをすごく応援してくれている。
仕事、そして恋愛。
たぶん、猛烈に。
そんな想いを受けた私も
山口の人妻のためにも、頑張りたいなと思う。
仕事、そして恋愛。
がぜん、猛烈に。
一時期恋愛ができずに悩んでいたわたしに人妻が紹介してくれたゴマブッ子さんの「あの女」ブログ、読んでいます。
そして
「幸せになれる」という、ゴマブッ子伝説の白鳥画像も待ち受けにしています。
わたしのあとに白鳥を待ち受けにした友達は
3週間で彼氏ができました。
かたや真崎。
あれから5か月。
待てど暮せどなにもありません。
でも、わたし頑張るよ、山口の人妻。
また恋に悩んだら、恋愛講義お願いします。